ネパールツーリズムの展望と可能性

ネパールツーリズムの展望と可能性

お話をお伺いした人:

「ヒマラヤン・ジャーニーズ」「シャングリラ・ツアーズ」「ラムドゥードゥル」レストラン

オーナー 大河原汎二氏、大河原由紀子氏

突然の暴風雨が吹き荒れた一夜明けて冬晴れの一日、ナクサルのオフィスにお邪魔しました。

ご夫妻はネパールに住まわれて40数年。ご主人のミスター大河原さんは、商工部会の初代副部会長でもあります。

永きにわたりネパールの観光業に携わってこられたお二人にお話をお伺いします。

本日はよろしくお願いします。

今日は商工部会のことや観光についていろいろお話を聞かせてください。

Qお二人が旅行会社を設立した経緯について?

ミセス:ネパールに来てはじめは他社で観光に関する仕事を7年間しました。その後独立して合弁会社を設立しました。その頃、この国では観光とトレッキングの両方を一つの会社が取り扱うことは法律で禁止されており、それぞれ別の会社を作る必要がありました。それで私たちはトレッキング会社である「ヒマラヤン・ジャーニーズ」と観光を扱う「シャングリラ・ツアーズ」の二社を同時に立ち上げ、その後タメルに「ラムドゥードゥル」レストランを1978年に開きました。

Q商工部会が設立されたきっかけは?

ミスター:以前はネパールに商社がいくつもありましたが、ネパールが民主化しその後マオイストの暴挙で国中が荒れた時、ほとんどが撤退してしまいました。建設関係が数社のこり、その関係の人が中心になって商工部会を設立しました。2004年3月のことです。2007年には大使館、日本人会と一緒に「日本・ネパール国交樹立50周年記念」の各種イベントに協力。 2008年にはネパール観光大臣にカトマンズ空港の整備について商工部会からの「要望書」を提出し、空港サービスの改善に取り組みました。2010年にはネパール政府にたいして、商工部会としてゼネストをやめてくれるよう、書類で申し入れました。

Qその頃、商社は何を取り扱おうとしていたのですか?

ミスター:ある商社はネパールの絨緞の輸出を考えていましたが、日本が望むロットは相当な量で、作るネパ-ル側がそれを賄うことができなくて話になりませんでした。製造業にいたっては材料があつまらず、大量生産が難しい、電気、インフラ整備、輸送の問題もあって、現在でもここから大量に輸出する産業は難しいのです。

Q輸送の問題は、産業の発展におおきな影響を及ぼしますね。最近のネパールでは、かなりの農村部までも車道が整備されるようになり、輸送方法が大きく変わって来ましたね。

ミスター:そうですね、ジョムソンなんかは道路ができたからリンゴの大量輸送ができるようになって、それで潤っている人がいるらしい。反面、街道のロッジ関係の人達は道路ができてほしくないようです。ものを運んでいたポーターの仕事がなくなると。また、観光客は車で素通りしてしまうと。

Q昔のスタイルのトレッキングが減ることでポーターが職を失う?

ミスター:トレッキングポーターが職を失っても、ロッジへの荷揚げやロッジの従業員の仕事が新たに出てくるだろうし、ロッジができればそれだけ働く人も必要になってくるから失業することはないでしょう。

宿や道路が整備されたときに問題なのは、目的地まですぐに着くから途中の村にお金が落ちなくなる可能性はありますね。だけど、国全体から見ればお客さんは増えるはずだし、国として潤っていくのではないかな。

Q道路が整備されたことで、トレッキングのスタイルも変わってきていますか?

ミスター:今のままでゆくと、トレッキング会社は近い将来なくなるんじゃないかな。登山とか辺鄙な所へ行く人のための特別なものを扱う会社は残るだろうけど。エベレストに行くのに昔は大名行列のようにテントを持ちガイド、コック連れていったけど、今はそれが最小限になりました。ナムチェあたりでは個室にアタッチバス付のロッジができています。食事がおいしく、ロッジが快適であれば、みんなそういうところに泊まっちゃう。

トレッキングに行かれる人の年齢層も上がってきているから、多少高くても、ロッジに泊まります。そうなると、ロッジ側も努力をして、清潔で、暖房、インターネットなどが完備するロッジにしている。まるでスイスのロッジみたいですよ。

Q開発で失われる自然についてはどうですか?

ミスター:山に自然を残したほうがいいというのはほんとだけど、

ネパールをそのままの状態で博物館としておいとくことは絶対無理。

有名なトレッキング・ルートはほとんど国立公園内です。トレッカーには薪の使用を禁止していますが、付随するポーターの煮炊きや、ロッジの料理、暖房は薪を使っている。自然のままというのは無理があります。 むしろ、飲料水や下水処理にネパール政府は真剣にとりくんでほしい。

Qトレッカーが増えれば環境への影響もあると思うのですが?

ミセス:エベレスト周辺はごみの焼却炉なんかもあります。ジョムソン周辺はプラスチックの袋、ペットボトル禁止など環境への配慮も始まっていますね。整備の面でアンナプルナ地域ではACAP (Annapurna Conservation Area Project)がトイレや食事などの衛生指導をしたり、ロッジのための調理指導もしたりしていますね。

Q取り扱う側の旅行会社はどうですか、変わってきていますか?

ミスター: 1970年頃は旅行会社には日本人がいて、ネパール人のガイドたちに日本人との話し方とか、旅行者の要望についてなどを指導していたけど、この頃はネパール人が日本やアメリカに行って勉強して帰ってくるから国際常識がわかってきているし、日本語が上手な人も増えています。

日本への手紙を書く必要があっても、今はコンピューターで翻訳もできるから彼らが日本語の手紙も書ける。この頃は日本人を置かなくても、旅行会社は問題なくやっているようです。その分、ここで働く我々日本人のビザの延長がスムースにゆかないという問題があります。

Q個人旅行というとリスクも気になりますが。

ミスター:よく、ポーターと知り合いになって、次に来た時に個人的にその人を頼んでトレッキングする人がいるけど、その人を完全に頼るのではなく、自分でも現地の情報収集をしたほうがいいですね。

聞いた話ではある時、個人で雇われたガイドがお客さんを連れてムスタン特別区にでかけたけど、そのガイドがムスタンに特別許可書が必要なのを知らなくて、そのまま引き返す羽目になったという話しです。

あとは、緊急事態が発生した時。ヘリコプターが必要になったらカトマンズに誰かいてヘリの手配をしなければ、いけません。料金の前払いもあります。ヘリコプター会社は支払いがなければ、事故が起きてもヘリは飛ばさない。

情報がなければ、大事になるという個人旅行の認識をきちんともっていただきたい。

Q旅行の形態も、個人で請け負うトレッキングから、値段を抑えた個人旅行、大手旅行会社利用のものと今は選択肢がいろいろありますね。

ミスター:今はネットが盛んだから、インターネットができる人はネットでホテルも飛行機も予約できます。

それはそれで、いいんじゃないかな。ただ事故が起きた時の対応がしっかりできるようにしてほしい。

昨今のネパールは決して安く旅行できる国ではない。どこの国の旅行でもそうですが、旅行の安全にはきちんとお金をかけることを認識すべきです。

Q今カトマンズではあちこちでホテルの建設をしていますが。

ミスター:マオイストのことで治安が悪化して観光客が減った時期に閉鎖したホテルがいくつかありました。観光客が戻ってきている昨今ではホテルの客室数が足りなくなってきていますね。アンナプルナホテルは外資系ホテルと提携したし、タメルにも外資系の大手ホテルチェーンができると聞きました。

Qなるほどネパールもいずれ他国のリゾート地のようになることもできると。

ミスター:受け入れ側の姿勢が大切です。衛生面、サービスの向上など。

努力すれば、5-6年うちに、世界のリゾート観光地としての仲間いりができるかもしれない。環境整備、大気汚染の話が解決したとして。ネパールの国の意識が中から変わることも大切。 バグマティ河の清掃など世界に宣伝すべきだと思っています。 やればできる国に期待しています。

Qネパールの政府は観光に関して特に具体的な計画を立てているのでしょうか?

ミセス:それは今のところないですね。私は機会があれば、ネパール政府に言うんです

「エベレストを持っているからって、そこに胡坐をかいていちゃダメなんだ」って。

安全面や事故のあったときの保障の面も含めて、受け入れる体制をちゃんと作らないと。

様々な整備が進んでいつの日かネパールがアジアのリゾート地になることを期待しましょう。

本日はありがとうございました。

プロフィール

大河原汎二氏:

生産工学部出身 旅行をするのはすきですが、お世話をすることになったのは、ネパールに来てから。

2012年に定年で会社をやめ、現在はここで健康のためゴルフ三昧。

大河原由紀子氏:

外資系の秘書をやっておりました。 旅行業はやったことがなかった。

ネパールで仕事の魅力といえば、日本で会えなかった沢山の人と知り合えたこと。

これは財産だと思っています。2014年退職。現在は相談役として会社にでています。

インタビュアー内藤 純子