日本人会商工部会 憲法勉強会ノート

2017年11月19日 日本人会商工部会 憲法勉強会ノート

ネパールでビジネスを行う上でのネパール連邦制と憲法

講師: 弁護士 Budhi Karki 氏文責

JICA専門家 弁護士 冨田 さとこ 氏

1.新憲法の特徴

連邦民主主義制度を採用(Democratic Federal Republic)

宗教分離主義(Secularism)を採用―ここでいう宗教分離は、国家が宗教に全く関与しないことではなく、全ての宗教を平等に扱うことを意味する。なお、宗教については他にも、他人を改宗させようとすることを禁止する規定がある。

経済政策に関わる点では、憲法はネパール国を“Socialism-oriented state”(社会主義を指向する国家)という定義している。これが単なる言葉だけで実態を伴わないものなのかは議論の余地が残っている。

生存権(right to life)は万人に保障されているが、消極的権利(表現の自由、集会結社の自由、居住・移転の自由等)は、ネパール市民にのみ保障されている。

2.連邦制の構造

(1)連邦政府・議会(Federal Government)の特徴

連邦制においては、理論的には州政府と中央政府は同等の権利を持つ。

ネパール連邦政府の持つ権能には三種類ある。

Exclusive Power 連邦政府に専権的に与えられた力

Concurrent Power 連邦政府が、州政府Provincial Governmentと、あるいは州政府及び地方政府Local Governmentと共同で行使する力

Residual Power 憲法に規定ないが自動的に連邦政府の権限とされるもの(例:核政策)

参考:アメリカ憲法では連邦政府の権力は限定列挙であり、憲法に制定されていない事態が生じた場合に授権するのは州政府。

参考:日本のような単一国家(Unitary state system)では、地方政府への授権は法律によって行われる。即ち、地方政府に権能がない訳ではなく、地方政府が憲法に認識されていないということに過ぎない。

国家の元首は首相であり、大統領は国の象徴的代表であり権力を持たない

国会は州政府・議会から選ばれた上院(Upper House, National Assembly)と、国民から直接選ばれた下院(Lower Houseからなる)。

大臣の数を新憲法は25人に限定しており、現在28ある省庁もこれに合わせて統合・減少すると思われる。

三権のうち司法は連邦制を取らず、単一制度を採用している(全国統一の三審制のみ)。

(2)地方政府・議会(Local government)の特徴

州議会が連邦政府によって解散させられる場合があるのに対し、連邦や州によって解散させられることはない。5年の任期を満了させる。

市長(Mayor)は地方議会のトップであるとともに、執行機関のトップでもある。

Deputy Mayorは地方議会の次席、執行機関の議席、かつJudicial Committeeで準裁判的なことも行う。したがって統治機構の三つの権能の分権もない。

(3)分権 ― List of Competency

憲法には5つのリストが付属しており、3つの政府のそれぞれの権能を定めている。

ア 連邦政府の専権

主たる政策に関する権限(Political power)、主たる財源に関する権限(Physical power、 Power in resources)は連邦政府が持っている。州政府に授権されているのはごく限られた税収権(例:ポカラでバイク登録した時の登録費は州へ)

ネパール主な歳入源には次の5種類あるが、いずれも連邦政府に残されている。

Custom duty 関税

VAT(value add tax) 付加価値税

Excise duty 国内消費税

Corporate tax 法人税

Individual income tax 個人所得税

Foreign aid, loan 外国からの支援

国際所取引International Trade関係の法や、知的財産権に関する法律の制定権限も連邦政府にある。

イ 州政府の専権

州には21種類の権限が与えられている。

その中で、いくつかの税収権も与えられている(不動産登録税、自動車税、興業税、広告税、農業および観光業に関する所得税等)

Inter provincial trade―州内の取引(消費まで)の規制は州政府が行う。

ウ 地方政府の専権

22の権限が与えられている。

その中に、地方税の歳入権があるが、収入が地方政府だけに残るとは限らない。例えばhouse rent taxは、恐らく州によって徴収されるが州と地方政府の両方に分配される。

エ 連邦と州の共同権限(Concurrent Power)

25の重要な権限が定められており、州と連邦政府が共同して取り決めることになっているため、ここに定めたれた権限に関する事項は州政府の法律により影響がありうる。

どのようになるか、まだ具体的には決まっていない。選挙後に州政府が組織され、自分達の権能を確認した上で必要な州法を作成するから、実際の法・システムが出来上がるまでには、州政府が形成されてからも暫く時間がかかる。

契約法はこの連邦政府と州政府の共同行使権限の管轄とされている。州ごとのビジネスに差がでるかもしれない。その他には、Social Security、労働組合法、労働争議法、Tourism等が州政府の管轄下にある。

オ 連邦と州及び地方政府の共同権限

15の権限が定められている(農業政策や災害対策等)

3.国の実質的変化の見通し・ビジネスへの影響

国の需要政策に関する権限は連邦政府に残っているため、劇的な変化は起こらない。また、一般市民にとって政府とは現場の役人や警察官。これらは一晩で変わらない。

地方政府に細かいことを任せることで、連邦政府はより高次の政策(例:汚職)にコミットできるのではないか。

自国のビジネスの保護はどこの国でも行われていることで、外国資本に対し一定の参入障壁があるのはやむを得ない。一方で、ネパールの貿易赤字は大きい。そのため輸出を促進する外国投資については、政府は促進政策をとるはず。

Budhi Karki 氏 略歴

1966年4月生まれ

Tribhuban 大学ならびにWashington 大学のLaw School出身

弁護士として各種の活動を行い、憲法制定時には政府の憲法制定委員会(Support to Participatory Constitution Building in Nepal(SPCBN))のLegal Officer(2009年1月-2015年1月)その後、憲法制度の専門家(Constitution Law, Federalism Implementation and Administrative Restructuring Committee(FIARC), The office of the Prime Minister and Council of Ministers(OPMCM)として首相府にて活動(2016年8月-12月) 現在はConstitutional Litigation & Legal Consultancy Servicesにて活動を続けている。